「『ハゲて来たら坊主』は潔い」とされるのは何故か

バーコードハゲに代表されるような、「限りある資源を大切にしている男性」は、「諦めが悪い」「悪あがきは見苦しい」とされ、いっそ全部剃ってしまうのは「潔い」と賞賛されることに疑問を持ちました。

本来、髪の毛は見た目だけのものではなく、頭皮から流れてくる汗をせき止めたり、直射日光から頭を守るためのものでもあります。

しかも男性の場合は好きで禿げてしまったのではなく、男性ホルモンや遺伝子によって起きてしまう、「致し方ないもの」です。「男性型脱毛症(AGA)」と名前がついているほど、ある意味「男性固有の病気」と言っても過言ではないと思います(※医学的には病気ではなく生理現象という位置づけです)。

「男性型脱毛症によって致し方なく減ってしまうのに、残っている髪を大事にしようとすると『悪あがき』『バーコードハゲ』と笑われる。潔く全部無くせと遠回しに言われる」というのはセクハラやモラハラにならないのでしょうか?

抜け毛

この記事は、普段「生理」や「更年期」など女性固有の生理現象に対して男性が言及すると、セクハラだモラハラだなんだと思ってしまう筆者(女性)が、反省と自戒を込めて、改めて考えてみることを目的としています。

AGA系のアフィリエイトサイトに飛ばすのは目的としていないことは、先に明記しておきます。

※本ページにはPRが含まれます。

「潔くて男らしい」はセクハラやモラハラに入らないのか?

端を発したのは、私がよく行く立ち飲み屋でのやり取りでした。

常連の一人加藤さん(仮名)は、見事なまでのスキンヘッドの持ち主。

スキンヘッド

たまに若干青々としている部分があるものの、恐らく頭部の毛根の半分以上は無くなってしまっていることが見て取れます。加藤さんは40代前半男性ですが、30代後半からすでにスキンヘッドだったらしいので、男性型脱毛症の進行が相当早かったようです。

お酒が入る場ですので、やはり皆さん面白おかしく話がしたくなります。そんな中で、加藤さんの頭は最早その店での鉄板ネタになってしまっているのです。

加藤さんは自分からもネタにしていて、「むしろオイシイから」と言っています(本心なのか、諦めによるものなのかは分かりかねますが)。

しかしそういう時に女性から「でもハゲてることを下手に隠して悪あがきするより、潔くて男らしいですよね」なんてフォローのような何かが入ることもままあります。

笑顔の女性

すると「確かにー!」「そうですよねー!」なんて同意の声が上がります。

果たしてそれは本当にフォローになっているのでしょうか?

男女逆転させて考えてみた

女性が加齢により失われていくもの、としてひとまず「肌のハリ」を例にしてみます(男女ともに失われるものですが)。

花子さん(架空の人物・40代)が、「肌のハリが無くなり過ぎて、もう化粧で隠すの限界があるからやめた!」と、スッピンで生きて行く決断をしたとします。

化粧と女性

男性からそれをネタに、「シミやシワを晒していくなんて、女らしくないな」と言われたり、「いやいやひた隠そうとして化物みたいな化粧してるおばさんより良いよ」と言われたり。

仮にそれで笑いが取れるのだとしたら、その場では笑っていて、自分でもネタにしていくとしても、全く傷つかない鋼の心を持つのは難しいのではないでしょうか。

そして花子さん自身が言わなくても、誰か別の女性が「それセクハラですよ!」って言うのではないでしょうか?

怒る女性

でも、男性の場合は、「男性型脱毛症で仕方ないのに、男らしく潔く諦めろなんてセクハラ・モラハラですよ」って指摘する人なんてほとんどいないのではないでしょうか?

そこで、なぜ、男性型脱毛症は笑いの対象になるのに対し、丸刈りという選択肢が男らしいと賞賛されるのか考えてみました。

男性と坊主頭の関係

「化粧するのが身だしなみの一部」と見なされる女性(この点にも疑問はあるのですが、今回はスルーします)とは違い、男性はそもそも坊主頭が「髪型の選択肢の一つ」として存在していることが、原因の一つではないかと仮定してみます。

仏道・軍隊・運動部など、戒律や規律の厳しい環境に身を置く男性に多い髪型という認識は、その環境から縁遠い人にも浸透していると思います。人生帰宅部の私も、初対面の人が坊主頭だったら「野球部だったんですか?」って聞くでしょう。「もしかしたら脱毛症で仕方なく坊主にしてるのかも」とは考えないと思います。

坊主頭

「おしゃれ坊主」などファッションで楽しんでいる人もいますし、髪型の一つとして日常的な存在であるからこそ、話題としてのハードルも低くなってしまっている可能性はありそうです。

誠意を示すケースもある

つい某女性アイドルが思い浮かんでしまいますが、あれは特例として、何か重大な失敗を犯した場合などに、男性が反省と真摯さや誠意を示すために、坊主頭にすることもあります。

例としては、2008年北京オリンピック・野球予選リーグ初戦・キューバ戦の敗戦を受け、ダルビッシュ有、田中将大、川崎宗則及び阿部慎之助が、「気合を入れなおす」という目的で相次いで頭を丸めた。
引用元:Wikipedia「丸刈り」

この時に、「男らしい!」「潔い!」と賞賛されたことからも、「自分の意志で坊主頭にするのは潔い」という認識は強く広まっているようです。

でもそれと脱毛症は別でしょう?!

自分の意志で頭を丸刈りにするという意味では同じですが、脱毛症によって「必要に迫られて」やった人全員を同じ扱いにするのは、ちょっと違うのではないでしょうか。

冒頭でも言いましたが、男性型脱毛症は、男性固有の病気のようなものと捉えても差し支えないと思うのです。

現にAGAで検索してみると「治療」という言葉がワンサカ出て来ます。

脱毛症検索結果

一応同じ「脱毛」という言葉が使われている、女性向けの「レーザー脱毛」でも検索してみました。

レーザー脱毛検索結果

こちらでは「治療」という言葉が全く出てきません。

更に試しに、加齢と共に発症する女性の病気として、「更年期」でも調べてみました。

更年期検索結果

こっちは出て来ました。「治療」とか「治す」とかいった言葉が。

※更年期は女性固有のものではないですが、一般的に「女性に起きるもの」のイメージが強いものとして更年期を例に挙げています。男性更年期は(LOH症候群)というそうです。

念のため再度強調しますが、私は「病気」と呼びたいわけではなく、医学的にもAGAや老人性脱毛症(あと更年期も)はホルモンの分泌量低下に伴う「生理現象」という見解が強いそうです。

ただこれだけ男性型脱毛症に対する扱いが酷い風潮の中では、「病気のようなもの」という強い言葉でないと認識を変えるのは難しいかなと思いました。

終わりに:腫れ物に触れるように扱えというワケではない

冒頭で出て来た立ち飲み屋の加藤さんのように、自らネタにしているケースもありますし、加藤さん定番のネタである「太陽拳」が繰り出された時に、「男性の毛髪に関する話は、デリケートな話題なので、このような場での言及は避けたいです」と言うのは逆に空気読めない人扱いされるでしょう。

ただ、あくまで「本人からネタを発している」「こちらからは言及しない」というスタンスが大事なのではないかなと思いました。理想は「笑いを取れるもの」ではなく、ごく普通のことになればいいのですが、いきなりは難しいと思いますので、まずは「こっちからネタにしない」とか「潔くて男らしい!」とは言わないとかから始めてみてはどうでしょうか。

女性からも男性へセクハラ・モラハラしてしまっていないか、少し考えてみてもらうキッカケになれば嬉しいです。


画像:「いらすとや」さん

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